初心者用: ヘッドホンのスペックの読み方
はじめに
薬の注意書きに書いてある『使用上の注意をよく読み用法、用量を守り正しくお使い下さい。』ってオーディオ製品にも大きく書いておくべきものじゃないのかな、とよく思うんです。
http://www.flickr.com/photos/sparktography/388889060/
最近そんな気持ちになったのは、
を読んだ時。そりゃまぁアンプ無しでK701は無理っすよ(っていうか何故、違いのわかりにくいリファレンスを買うんだ・・・)。なーんてツッコミはさておき、今回は音圧感度とインピーダンスについて少しまとめておきましょう。
音圧感度とは
まず件のK701のカタログスペックを見てみましょう。注目すべきは
音圧感度 93 db
の項目です。世に出回っているヘッドホンは90dB~110dB程度のものが多いので、K701は低めの音圧感度であることが分かります。ではこの値が低いとはどういう意味を持つのでしょうか。厳密には後述するインピーダンスとの兼ね合いで決まりますが、大雑把に言えば音圧感度が低いほど音量も小さくなる、ことになります。誤解を恐れずに言えば最大音量はこの値で決まります。
インピーダンスとは
もう一度K701のカタログスペックに戻りましょう。今回注目すべきは
インピーダンス 62 Ω(オーム)
の項目です。オームって聞くと例のあいつを思い出しますが、全く関係ありません。名前の由来はドイツの物理学者、ゲオルク・ジーモン・オームから来ています。
http://andy-cinema.jugem.jp/?eid=124
インピーダンスは一言で言えば電気抵抗のことを指します。じゃあ何でそう呼ばないかというと、直流と違って交流回路では少し事情が異なるからです。しかし一般人にとってこの差はそれほど重要ではないので、インピーダンス≒電気抵抗と言う認識で問題ありません。
ではこのインピーダンスの値が大きいとどうなるか?抵抗が大きいので当然ですが音が小さくなります。また、抵抗が大きいので本来音をだすために動くべき部位が動かないことにも繋がります。電力効率の観点からは小さければ小さいほど効率がいいということになります。音圧感度との対応関係で言えば最低音量を決めるのはこの値です。
ヘッドフォンを買うとき、とくに高額なヘッドフォンを買う際にはこのインピーダンスの値に注意すべきだと僕はアドバイスするようにしています。なぜならヘッドフォンに伝わる入力が抵抗よりも小さいとまともにヘッドフォンが動かないためです。
喩えるならば、こんな状況です。
- 中学1年生レベルの数学の問題を解くと100円もらえる。
- 高校1年生レベルの数学の問題を解くと1000円もらえる。
- 大学1年生レベルの数学の問題を解くと10000円もらえる。
という3つの選択肢があったとしましょう。問題の難易度はヘッドフォンのインピーダンスの高さ、報酬は得られる音質に対応します(現実には必ずしもそうではないですけど)。難しければ難しいほど得られる報酬も高いですが、もしも解けなかったら報酬は0円です。そしてヘッドフォンアンプは難しい問題が解けるようになるドラえもんの道具のようなものなのです。
http://mirukumablog.blog113.fc2.com/blog-entry-38.html
音圧感度とインピーダンスとの兼ね合いで・・・と先述した理由は、インピーダンスが半分になると音圧が3dB大きくなるという対応関係があるためです。そのためインピーダンスの異なるヘッドホンの音量のみを比較する際には基準化が必要となります。例えば、
の機種を比べる場合は、y と z-3 の値を比べることになります。インピーダンスが高ければ高いほど、それだけ最大音量が小さくなっていくわけです。ですから、アンプを使わずにイヤホン直挿しでインピーダンスの高いK701のようなヘッドホンで音楽を聞こうとすると、
- 問題が解けない=ゼロ報酬=いい音が流れない
- 音量が小さくて聞こえないという
という悲劇が生まれるわけです。
まとめ
- 高級機に多い低音圧感度・高インピーダンスのヘッドホン・イヤホンは、低出力だと能力が活かしきれない。(音が小さい・音がスカスカなど)
- ヘッドフォンアンプを使用することで、ヘッドホンが本来の性能を発揮できるようになり、音質が改善する。
- 低音圧感度の目安は100db未満
- 高インピーダンスの目安は50Ω以上(人によっては40Ωと言う人も)
おまけ
そもそも高級機は何故、低音圧感度・高インピーダンスな機種が多いのかって話なんですが、野村ケンジさんの
その(目的の音だけを出す)ためには、できるだけヘッドホンのユニットが動かないほうがいいんですね。高級ヘッドホンは届いた信号に対して、ピンポイントで動くようにできているので、とても動きにくいというわけです。
ってのは上手い解説だと思いました。
おまけのおまけ(2018/2)
こちらの記事へのアクセスが多いので、追記。入門機のヘッドホンで検索するとプリンという用語にヒットすることが多いことに気がつくでしょう。これはゼンハイザーのHD598を意味していて、本体カラーがプリン色であることから名付けられています。
現在はこの後継機としてHD599が存在します(音質の良さはそのままでプリン成分はやや薄れ、見た目はよりスタイリッシュに)。なぜこのHD599が入門機に最適か、復習を兼ねて少し付け加えておきましょう。まずはインピーダンス、HD599のインピーダンスは50Ωです。この値はプリン(HD598)と同じで高すぎず、イヤホン直挿しでも十分な音質と音量を得ることができます(もちろんアンプがあったほうがいいですが)。次に音圧感度、こちらは106dbとなっており、112dbあったHD598よりはやや低い値ですが、必要十分な値になっています。一言でまとめると、詳しいことを知らなくても、一般的な環境でちゃんとした音を出してくれる条件が揃っているわけです。2万円台でベストバイにランクし続けている理由を納得して頂けると幸いです。
こちらの記事にもプリンちゃんが登場します。
networkaudiolab.hatenablog.com