DACとは何か
はじめに
「DACって何なの?」
PCオーディオ草創期に、色々な人から聞かれたのを思い出します。この質問を受けて書いた記事が以下のものですが、気づけば4年前なのか・・・。ちなみにこの質問をしてきた人の中には、オールドオーディオラバーの人も含まれていました。DAC自体はCDプレーヤーの中に組み込まれていたのですが、今ほど意識はされていなかったのかもしれません。
photo credit: Nicolas Rénac Eclosion via photopin (license)
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去年10月のNet Audioの特集「DACとは何か?」を見て、そんなことを思い返しました。ということで、記事を参照しながら久し振りにDACの話をしたり、最新トレンドを追ってみましょう。
DACとは
DACについての説明については、4年前の僕の過去記事を参照するのが今でも一番分かりやすいと自負しています。ポイントとして、
- DACとはデジタル・アナログ・コンバーターの略で、デジタルデータをアナログ信号に変換する機械
- DACがないと、PCでデジタル⇒アナログ変換を行うことになるが、PCはノイズだらけなので、「デジタル⇒アナログ信号+ノイズ」になってしまう。
- そこでPCでは変換を行わずにDACで変換することで、ノイズを避けよう!
というものでした。
Net Audioの記事ではDACの重要性を強調しています。
歴史
DACを飛躍的に進化させたのはなんと言っても⊿Σ(デルタシグマ)変調です。
- 80年代末から90年代にかけて普及した1bit型DACが採用する⊿Σ変調である。
- 大きなメリットの一つが可聴帯域内での量子化ノイズを可聴帯域外となる超高域へ追いやるノイズシェーピングだ。
- 2000年代に入るとその技術もより洗練され、設計のしやすさや量産効果を含めたコストの点でも1bit型DACが優勢となっていく。
近年、オーディオマニアの間ではDSD音源が普及しています。僕も当初は懐疑的でしたが、2015年の中ごろにハマってしまい、こんなことを言っています。
ソフト面で去年一番投資したのが実はこのDSDで、「あんなもの流行らないね」みたいなことをずっと言ってたんですが、DSD信者から容量の(相対的な)小ささと音のクリアネスに関する長い長い洗脳を受け(笑)、気づいたらDSD音源買い漁ってたんですよね。
それなりに普及したこともあり、DSDって結局何なの?みたいな質問は結構あって、これはどのように音源が記録されているかの違いとして説明できます。まず、音声データのMP3、これは圧縮音源です。これに対して、CDやハイレゾでお馴染みのFLACなんかはリニア(非圧縮)PCM変調で記録されている非圧縮音源になります。非圧縮なので、当然ですが音質の劣化がないのが一番の魅力です。DSDもこの非圧縮音源の仲間なので、当然音質がいいわけですが、
- PCMデータに関してはインターポレーション(内挿)フィルターを用いてサンプルデータの補間を行ってから⊿Σ変調を行うが、DSDデータではこの処理が不要であり、よりシンプルな回路を実現できるのが優位点だ。
という違いがあります。基本的にオーディオはシンプルであればあるほどよいことが多いので、無駄な内挿プロセスがないだけ、DSDは音質的に(サイズ的にも)有利になります。
メーカー
このブログでもたびたび扱っているDACチップのメーカーについて。オーディオマニアの間で定評があるのはテキサス・インスツルメンツ(TI)のバーブラウン(PCM**)とESS(ES**)、ここに日本の旭化成(AK**)やウォルフソン、シーラスロジックなどが食い込んできます。
こうした汎用チップに加えて、超高級機ではFPGAを用いたDAC回路も見られます。FPGAは簡単に言えばオーダーメイドの回路のことで、近年は金融の高頻度取引(HFT)やディープラーニング等の科学技術計算でも使われることの多いものです。DACチップはアナログ音源の味付けを変えるので、好みの音を追求するには、回路をいじるのが一番いいわけです。
バルク転送
現在マニアが注目しているバルク(Bulk Pet)転送方式、これはUSBのデータ転送にかかわる新しい方式のことで、これから普及していく可能性が高いです。
発想としては、Bluetoothの転送方式の話に似ていて、Bluetoothのデフォルト転送方式はスピード重視のSBCだった(そもそも音声を飛ばす目的ではなかった)わけですが、これでは音質の劣化がひどいということでapt-XやAAC、さらにLDACなんかが登場したのは以前書きました。
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同様に、USBについてもデフォルト転送方式はアイソクラナスという応答性重視の方式でした(やはり音声を飛ばす目的ではなく、マウスやキーボードの利用が主目的)。しかし、この方式は転送容量に波を生むため、DACに負担をかけてしまい、音質の劣化に繋がることが指摘されていました。そこでそうした不要な波を生まない連続的な転送方式を行おう、こうした目的で開発されたのがバルク転送です。簡潔に言えば、ガタガタした離散転送方式からなめらかな連続転送方式への移行ということになります。
試聴
本誌では100万オーバーの最高級DACも試聴されていますが、さすがに一般人には厳しすぎるので、10万円前後の据え置き機に限定しました。パワーアンプはNuPrimeのSTA-9、スピーカーはやや力不足ですが、入手のしやすさと最近の人気を考慮して、今回はKEFのQ350を使いました。音源はFLACとDSDです。
micro iDSD BL
2015年の記事で、なんでこの値段でDSD11.2MHzまで対応してるの!って驚いているiDSDの後継機、取り回しのしやすさや扱いやすいサイズも相まって、安定した人気です。チップはバーブラウンDSD1793×2。
- ニュートラルではあったがややドライな質感であった前モデルに比べ、艶ハリよく質感の滑らかさが加わるとともに、どっしりとした低域の量感や締り感も向上。
とのことですが、個人的に艶ハリは感じられず、一方で全音域についてしっかりした正確な音を出しているように感じました。この辺りはスピーカーの味付け、スピーカーとの相性もあるでしょうが、さすがベストセラーだけあって、堅実ないいDACだと思います。
ちなみに、中級機としてxDSDが4月に発売されました。値段やサイズ、スペックは大ヒットとなったCHORDのMojoを意識しつつ、高級感をアピールしていこうといった戦略のようですね。チップは同じくDSD1793です。micro iDSD BLに比べると量感がやや落ちますが、モバイル用途なら十分だと思います。
CHORDのMojoのチップはというと、汎用チップは使っておらず、さきほど超高級機で採用されていると紹介したFPGAが使用されているのが大ヒットの理由です。CHORDのフラッグシップ据え置きDACであるDAVEは150万円ほどしますが、こちらは6万円以下。据え置きで使うにはやや難がありますが、音の滑らかさはピカイチで、価格破壊感は相変わらずでした。音を大きくするとややジッターが気になりましたが、そもそもこの2機はモバイルDACなので、気にしなくてよいでしょう。
- 無限に処理ができるフィルタを使って補完すれば、オリジナルの波形を復元できるというのが我々の考え方です。つまり、補完処理を増やしていけばいいのです。そのためには、フィルタのアルゴリズムを改良し、いかに効率的に処理を重ねていくかを重視しています
ASCII.jp:CHORD『Mojo』は、見た目からは想像できないほど過激なDAC、CEOに聞く
Hugo/Mojo/DAVE、CHORDは何故汎用DACを使わないのか? キーマンがこだわりを解説 - AV Watch
marantz HD-DAC1
こちらもmarantzのベストセラーDAC、marantzのフラッグシップはディスクリートDACを誇るSA-10ですが、50万円オーバーで需要がないでしょうから、こちらをセレクト。DACチップはシーラスロジックのCS4398です。2014年発売だけあって、ややスペック的に見劣りしがちですが、余裕があって非常に満足感のある音です。音の解像度は(フラッグシップ級と比べると)控えめで甘いですが、普通の人には十分すぎると思います。
OPPO Sonica DAC
2017年聞いてよかったものでも紹介した超コスパ機Sonica DAC、まさかのOPPOのAV事業撤退により販売中止になってしまい、プレミアがついてしまいました。ESSの旗艦チップであるES9038PROを搭載したスペックの高さ、10万円を切るコスパの良さは圧巻で、去年のオーディオマニアの話題になったことは記憶に新しいところです。プレミア価格でしか買えなくなったのは残念ですね。
僕はNuPrimeのファンであり、当然にESSのチップのファンでもあるため、圧倒的な解像度の高さを誇る本機の音も大満足でした。不満を言えば、音声再現能力に関してはバーブラウンのチップに一日の長があるかな、というところがあり(もちろんチップだけでは決まらないのであくまでも傾向ですが)、オーケストラに包み込まれたい!みたいなときには、やや物足りなさを感じることがあります。逆に打ち込み音源を聞く時などは、ESS圧勝で、ESSの右に並ぶものはないように感じています(CHORDのFPGA含め)。
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さいごに
ということで、久し振りにDACの話をしてみました。DACはエンジニアリング的な要素が強いので、技術的な部分に興味があるなら非常に楽しい機構ですね(文系の人は嫌いかもしれませんが)。ちょっとマニアックになりすぎたかもしれませんが、楽しかったです。