お年玉で買うべきミニコンポ2023
はじめに
皆様こんにちは、毎年恒例「お年玉で買うべきミニコンポ」です。新製品が今年も出なかったのはお決まりとして、円安と原料高で既存アンプやスピーカーが値上げラッシュとなっており、安価で高音質のシステムを組むのが困難な時期になっているのが辛いですね。昨年のさいごにで「中長期的な円安トレンド」と書きましたが、当時の115円から一時150円を超えるまで急速に円安が進むとは想定しておらず、すさまじい一年となりました。
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目次
過去記事
過去記事も参考にしてください。
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今年の新製品
昨年に引き続き、ドウシシャが、自社ブランド「ORION」ブランド音響製品の第2弾として、SMC-350BTを発売しました。位置づけとしては、SANSUIのSMC-300BTの後継機ですね。300BTの評価は以下の通りでした。
真空管アンプ+和紙スピーカーという奇をてらった印象のある構成ながら、やたらと正統な音が流れてくるので、売れて欲しいなと去年書いたんですが、かなり売れ行きがよいらしく嬉しいです。もっとも購買層の多くは、SANSUIのオールドファンらしいので、若い人にも聞いてほしいコンポですね。
我々の画一的な評価では、量感こそあるものの、音の解像度や明瞭さ、音像定位、音場感などどうしても劣った点をつけざるを得ません。しかし、真空管でしか出せないふんわりとした音があるというのも事実・・・
300BTからの主な変更点はアンプの出力が30W+30Wから35W+35Wに、スピーカーが11cmW-RPM+3.8cmコーン型から11cm ウーファー+2.5cm ドーム型になったことです。コーン型ツイーターは前作の明らかなコストカットポイントでしたので、ドーム型になったのは素直に嬉しいポイント。SANSUI時代の500BTのスピーカー13cmW-RPM+3.8cmシルクドームを採用してくれるとよりお得感が高まったのですが、今年550BTを作るつもりで取っておいているのでしょうか。
本作の評価ですが、過渡特性(トランジェント)の改善は見られるものの、解像度はお察しという感じで、現代的な評価軸ではあまり高評価をつけにくいというのは全機種と同様です。イージーリスニング用のコンポとしては悪くないですが、実勢価格が約2.5万円であることを考えると、実勢価格が同じ価格帯(約3万円)のSC-PMX90を買ったほうが満足度は高く、真空管ラバー向けの変化球的な位置づけは相変わらずという感想になります。(PMX90は2.5万円を切ることもあるので尚更)
一体型ネットワークCDレシーバーのTechnics「SA-C600」は長らく一強だったMarantzのM-CR612の地位を脅かす製品として注目です。M-CR612の実勢価格は一時期8万円まで上がっていましたが、現在は6万円前後まで落ち着いています。一方で、SA-C600は約10万円ですから、実勢価格にはやや開きがあります。ただ、M-CR612は6月に価格改定しており、定価は79,200円 → 99,000円となっていますので、同価格帯の製品と考えてよいでしょう。出力はともに120W、サイズはM-CR612が280x111x303 mmに対して、SA-C600は340x94x341 mmなのででかく平べったいです。新しいだけあって、SA-C600は接続端子も豊富です。
※M-CR612は価格改定前の在庫がなくなると徐々に価格上昇していく可能性がありますので、購入したい方は早めがよいかもしれません。原料コストの上昇を考えると、5万円時代に回帰することは考えにくいです。
肝心の音質ですが、この価格帯、機能性でM-CR612を超えた初めての機種がSA-C600だというのが率直な感想です。M-CR612は高音質ですが、本格的なHIFIオーディオと比較すると低音の稠密性には課題があります。またモニターライクなので、やや抑揚に欠けるきらいがあります。もちろん実勢価格6万円であることを考えるとコスパモンスターであることに疑いはありませんが、同じ10万円の機体としてSA-C600と比較すると、やや物足りないと思うでしょう。それくらいSA-C600の音質は抜群です。
ではどちらを買うべきでしょうか。同じ予算のもとであれば、私はM-CR612を選びます。プレーヤーとアンプ性能はSA-C600が上ですが、実勢価格の差である4万円でスピーカーをグレードアップすれば、音質の差は簡単に覆るからです。逆にそうした予算制約に直面していないのであれば、SA-C600は有力な選択肢になると思います。
これだけTechnics製品を褒めるとSC-C70MK2の評価が気になる人も多いでしょう。実勢価格が10万円を切ってきたことから、検討対象に加える人がいるかもしれません。結論から言えば、SC-C70MK2はあまりおすすめできません。低音の量感を無理に稼ごうとする不自然なチューニングを行っているため、全体のバランスが崩れているのが最大の欠点です。PMXの価格帯ならこうしたチューニングも許されますが、HIFIを見据えた高価格帯でこれは厳しいです。
ベストバイ
Panasonic PMXシリーズ
毎年恒例のPMXシリーズです。昨年発売したPMX900は実勢価格5.5万円で5000円くらい安くなりましたね。昨年実勢価格4万円前後でバーゲンセールですよ、としていたPMX150はやや値上がりして4.5万円程度となり、価格差が1万円まで縮まりました。この価格差ならPMX900がベターですので、予算が許すならPMX900をおすすめします。
また、PMX90は実勢価格が2.5万円まで落ちたあと、昨年と同じ3万円まで戻ってきています。昨年は
例年であればネットワーク機能を欲しいかどうかでPMX150とPMX90のどちらかを選んでくださいと言うところですが、4万円前後であればPMX150一択です。
と書いたのですが、今年は悩ましいですね。
DENON M41
3年前に実勢価格3万円前後で圧倒的なコスパでしたが、今年の実勢価格は4.5万円となりました。去年の5万円よりはましになりましたが、PMX900の価格下落により、相対的に価格競争力は低下しました。
昨年と同じく、
古いこともあって機能性はあまり期待できないものの、DENONのHIFI譲りの高音質は価格対比でやはり素晴らしく、やや解像度重視の現代的音作りを志向するPanasonicの音が好きになれない人には、有力な代替案になります。
という評価になりますので、こだわりがなければPMXシリーズを選んだほうが無難かと思います。
自作
上記で書いたようにSA-C600に音質で負けてしまったMarantzのM-CR612ですが、実勢価格的にアンダー10万円のシステムを作る際に必須のピースである事実は変わりません(最近は価格高騰で15万円くらいまで許容していますけど)。幸いなことにM-CR612の実勢価格は6万円前後に落ち着いていますので、今年は現実的な提案ができそうです。
昨年と同じ構成については、価格変動のみお伝えしていますので、具体的な評価は過去記事をご覧ください。
M-CR612+3010i/3020i
去年紹介した直後に値上げされてしまったQ Acousticsの3020iは実勢価格4万円を維持しており、良コスパです。
M-CR612+SPEKTOR1/2
DALIのSPEKTOR2は実勢価格がどんどん値上がりしています。昨年は3.3万円でしたが、2月中旬に実勢価格4万円、そして現在は実勢価格5万円近くまで来ています。DALIのスピーカーは人気があるため、継続的に値上げしてきています。気に入った方は早めに購入したほうが良さそうです。
M-CR612+Oberon1
昨年は価格高騰で外したのですが、6万円近くまで高騰した後、なぜか5万円近くまで価格が下落しており、SPEKTOR2対比で買いやすくなったため再度ランクインさせました。DALIのベストセラーにして代表的なモデル、日本人好みの美しいメロディと機体は安定した人気です。
M-CR612+LX-2
MissionのLX-2は比較的ブランドがマイナーであることも手伝い、実勢価格3.8万円を維持しており、コスパ良好です。ただ、解像度を気にする人からすると、やや大雑把な音作りに聞こえてしまいます。
自作2:SA-C600に合うスピーカーを探せ
これだけでは昨年の焼き直しで終わってしまうため、今年は新企画としてSA-C600に合うスピーカーを探せという企画を行いました。SA-C600には公式推奨のスピーカーとしてSB-C600が販売されています。こちらですが、前述したSC-C70MK2と同様、低音の量感を無理に稼ごうとする不自然なチューニングが感じられます。もちろんSC-C70MK2ほどひどくはないのですが、全体のバランスは多少なりとも崩れており、C600の潜在能力を活かせるような特性のスピーカーになっていません。そこで同価格帯のスピーカーから、よりマッチするスピーカーを探してみました。
今回比較したのはWharfedale Diamond 12.1, Focal Chora 806, B&W 607 S2 AE, Polk R100の4機種です。個人的にはキラキラ感のあるB&Wとの相性が良いかと思っていたのですが、聞いてみると圧倒的にマッチしたのがFocal Chora 806でした。B&Wはソリッドさが強調されすぎ、やや疲れるというコメントが参加者からありました。今年話題のPolk R100はフラットでよいスピーカーだと思いましたが、SA-C600との組み合わせでは抑揚に欠けました。WharfedaleとFocalはかなり似た鳴り方をしていましたが、Focalのほうがより伸びやかで生き生きとした鳴り方をしていましたと思います。
リンク
さいごに
今年のミニコンポ業界二大ニュースはSA-C600の登場とPolk Audioの来襲でした。Polk Audioはサウンドバーでも存在感を示していましたね。Technicsは復活してから、やや空回り気味な製品が多かったですが、SA-C600はこれまでの失態を帳消しする素晴らしい製品でした。ミニコンポそのものは新しい製品がほぼゼロで寂しい限りですし、原料価格の高騰と円安で新しい提案も少ない試聴会にあって、SA-C600は期待の星となりました。もう少し実勢価格が安くなってくると、より多くの提案ができるのですが、業界的にはあまり廉価になってほしくもないし、なんとも複雑な気分です。
毎度おなじみとなりましたが、試聴会に協力いただいた皆様、また記事を読んでいただいたすべての皆様に今年もお礼を申し上げます。
それでは皆様、よいお年を!
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オーディオ製品を探しているけど、必ずしもミニコンポじゃなくてもいいよ!って人は、以下の記事が参考になるかもしれません。
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ピュアオーディオ2022
ピュアオーディオとは
家電批評2022年7月号でピュアオーディオ音育方程式21と称した小特集が組まれていました。
ピュアオーディオの定義は純粋に好きな音楽を楽しむための高音質なオーディオ製品群、予算の比率はスピーカー5割>アンプ3割>プレイヤー2割となっています。この辺りは昔からのコンセンサスなので不満なしの説明ですが、近年はプレイヤーをスマホやタブレット、PCといった汎用電子機器にまかせ、スピーカーやアンプに予算を振るような構成も一般的です。
第1のツッコミどころ:美音かモニターか
目指す音楽の方向性を美音とモニターに分けるのは、意見の分かれるところですね。私の定義で、ピュアオーディオとは原音再生能力の向上を目指すものなので、ここで雑誌が言うところの「美音」を目指すのはピュアオーディオとは路線が異なる印象を受けます。そして、この路線を「美音」と表現する点にも不満があります。
原音の対極を演出(音質補正?)、音像の対極を音場とする点も気になりますが、いったんこの分類を受け入れて議論しましょう。雑誌が「美音」と呼ぶ路線はピュアオーディオではなく、ピュアシアター(という言葉はありませんが、純粋に好きな映画を楽しむための高音質なオーディオ製品群)と言うべきだと思います。映画マニアも「音」にこだわりがある人は少なくありませんが、原音再生にこだわりはなく、味付けがされていてもいい音に聞こえるならばそちらのほうを好む傾向があり、ダイナミックな音場感をより重視、近年では立体音響などモニターと対極路線に進んでいます。これはオーディオマニアが「美音」と表現するものとは明確に異なっています。誤解を招くので、「美音」か「モニター」かではなく、「ピュアシアター」か「ピュアオーディオ(モニター)」かで分類したほうがよいと思います。
以上の議論は以前にも書いています。音質補正によるいい音や音場を重視する「ピュアシアター」派の方は、シアターバーなどのシステムを検討するのも一案だと思います。
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第2のツッコミどころ:音場か音像か
音場を音像の対極に置く点にも異論があります。以前に書いた内容を引用すると、
私の知り合いで、とくにオールドファンの方などは、解像度やスピード感はあまり重視せず、温かみや音場感が大事だという方が少なくありません。温かみはともかく、音場感は音像定位と密接な関係があると思うのですが、ちょっと違うとのことです。原音忠実型と雰囲気重視型という最近どこかで見た用語で分類したいところですが、雰囲気重視というには個々の音に敏感すぎるので、こういう表現も難しい。ここでは便宜的に、彼(女)らをタンノイ型と呼んでおきましょう。
https://networkaudiolab.hatenablog.com/entry/2021/05/29/021944
私は音場感に音像定位が必要だと考えています。音像定位というのは端的に言ってしまえば、どれだけ正確に臨場感を再現できるか、空間表現能力の高さを意味します。当然ですが、音像定位の能力の高さは音場感にプラスに働きます。しかし、この図では音場と音像がトレードオフの関係にあるように見えます。
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私の個人的な分類
では、どう書けばよいでしょうか。これは個人的な意見ですが、図の縦軸は音場再現を高める方法にすればよいと思います。音場再現能力を高める方法は大きく2種類あり、音像定位を高める方法(ピュアオーディオ(モニター))と、演出や複数のスピーカー、立体音響などを用いる方法(ピュアシアター)です。
では、オーディオマニアが考える美音はどこに位置するでしょうか。モニターサウンドには大きくスピード感(過渡(トランジェント)特性)と解像度の2つの要素があり、近代的なHi-Fiサウンドと言うと高速高解像度サウンドを目指す傾向があります。一方で、伝統的なピュアオーディオ、例えばタンノイなどはこうした要素がそれほど重視されておらず、こうしたサウンドが美音と評される傾向があるように思います。具体的なスピーカーブランドだとKEFは右上、モニターオーディオや日本のメーカーは中心やや右上寄り、DALIのOBERONは中心やや左下寄り、ELACは右下という印象です。
予算30万円システム
本誌では予算30万円のシステムとして、2種類が推奨されていました。
候補1
マランツ+JBLという王道の組み合わせ、解像度はそれなり、スピード感はややありということで、先程の図ですと中心やや左上寄りの構成ですね。
JBL 4309
marantz PM6007
marantz CD6007
候補2
TEAC+KEFの近代構成ですね。先程紹介したように、KEFは近代Hi-Fiサウンドのリーディングカンパニーです。ピュアオーディオ初体験の方にぜひとも体感してもらいたいのは低音です。いわゆる非モニター、ピュアシアター路線の低音(Boseなど)は音質補正によって量感ある低音を指向します。対照的に、ピュアオーディオの低音の特徴は高解像度による稠密性の高さです。例えて言うなら、重さを大きな金属の塊で表現するか、小さな金属の集積で表現するかといった違いです。
KEF LS50 Meta
TEAC AI-301DA
TEAC PD-301
最後に
時間があれば、少し私の30万円推奨構成も書いてみたいですね。以下は過去の推奨構成(~10万円、~20万円)です。
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お年玉で買うべきミニコンポ2022
はじめに
皆様こんにちは、毎年恒例「お年玉で買うべきミニコンポ」です。今年はコロナの感染が収まったタイミングで試聴会を開催しました。数年前から危惧していた「新製品出ないよ」問題は致命的で、今年も新規試聴は片手で数えるほどでした。
目次
過去記事
過去記事も参考にしてください。
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今年の新製品
生活関連用品の企画・開発・販売を行う株式会社ドウシシャ)が、自社ブランド「ORION」ブランド音響製品の第一弾として、独自の抄紙方法で開発した、和紙素材2重抄紙製法(W-RPM)スピーカーを搭載したセパレートタイプのSMC-160BTを発売しました。CDやUSBを再生できるのはもちろんのこと、Bluetoothスピーカーにもなるのに実勢価格が1万円未満なので、廉価のミニコンポ(CDシステム)を探している層にはいいでしょう。低音の量感は悪くありませんが、音の明瞭さ(クリアネス)や解像度はお値段相応といったところで、お世辞にもよくありません。手軽にCDを再生したいという人以外は、素直にスピーカーやBluetoothスピーカーを検討したほうがよいです。また、手軽にCDを再生したい層は、やや予算が高くなりますが、PanasonicのSC-PM250との比較検討を強くおすすめします。
ベストバイ
Panasonic PMX150, 900/90
PMX900のところで説明しましたが、新製品登場による在庫処分により、PMX150がバーゲンセール中です。圧倒的なコスパにより、PMX150をベストバイとしました。ただ、これは一時的な異常値のようなものなので、バーゲンが終わった後は、PMX900/90がベストバイになります。
DENON M41
昨年は在庫が切れていたのでベストバイに入れませんでしたが、今年は復活していました。ただ、2年前に実勢価格3万円前後で圧倒的だったコスパは実勢価格5万円で急激に悪化しています。PMX150は異常値なので無視するとして、PMX900/90と比較するとコスパに劣るという印象です。古いこともあって機能性はあまり期待できないものの、DENONのHIFI譲りの高音質は価格対比でやはり素晴らしく、やや解像度重視の現代的音作りを志向するPanasonicの音が好きになれない人には、有力な代替案になります。
自作
例年、自作システムのメインに据えてきたMarantzのM-CR612ですが、コロナによる供給制約の影響からか、値段が下がるどころか高騰しています(実勢価格5万円から6万円~8万円に高騰)。ミニコンポの記事では予算10万円程度までを想定してスピーカーを選んでいるのですが、M-CR612が8万円想定だとまともなスピーカーを買えず、自作する意味がありません。そこで、価格がやや落ち着いた前提での推奨構成をいくつか挙げておきます。DALIのOBERONは、予算オーバーという理由から、今年はベストバイから除外しました。
M-CR612+3010i/3020i
去年紹介した直後に値上げされてしまったQ Acousticsの3010i/3020iですが、まだまだ良コスパ健在です。解像度や明瞭さ、音像定位など基本的なパラメータの数値が素晴らしく、科学的に音質を追求する姿勢を強く感じます。
M-CR612+SPEKTOR1/2
このブログでは定番のDALIのSPEKTOR1/2も実勢価格が値上がりしています。量感は限定的ですが、解像度コスパの高さは随一、OBERONほどではないですが、DALI特有の艶やかさも感じられます。
M-CR612+LX-2
他のスピーカーの価格高騰に伴い、MissionのLX-2が2019年以来2度めのベストバイ。やはり解像度は他のスピーカーに比べて劣るものの、世の中の大半の人が好きな音は原音に忠実なモニターライクな音ではなく、活き活きと躍動感ある音なわけで、音楽を楽しみたい層にはドンハマりのスピーカー、一度は試聴するべきだと思います。
LX-2のようなある種のエンタメ的なスピーカー(失礼)がベストバイに選出されるのがこの企画のいいところで(私は解像度重視なので、あまり高い点をつけない)、試聴会を開く最大のメリットを実感する結果になりました。在宅ワーク中にBGMとして音楽を流す場合、解像度よりも抑揚を重視したいのでLX-2を選びました、というコメントが印象的でした。
さいごに
ドウシシャのオーディオ参入は久しぶりの明るいニュースでしょうか。パナソニックはテクニクスブランドを生かして、引き続き覇権を握り続けそうです。自作部門では、とにもかくにも値上げラッシュ、中長期的な円安トレンドを考慮すると、欲しいものは早め早めに買ったほうがよいと再認識させられました。こういう気付きが得られるだけでも、1年に1回の定点観測に価値があるように思いますね。
ミニコンポ業界(?)の縮小により、今年からはアクティブスピーカーも合わせてレビューすることも考えましたが、それは別に他の記事でもできることなので、お年玉で買うべきシリーズはミニコンポと心中する路線を維持することになりました(来年はどうなるか分かりませんが)。
協力いただいた皆様、また記事を読んでいただいたすべての皆様に今年もお礼を申し上げます。
それでは皆様、よいお年を!
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本音のオーディオ入門4:ネットワークオーディオプレーヤー+パッシブスピーカー(U10万円システム)
はじめに
1・2・3に引き続き、MONOQLO2021年11月号「本音のオーディオ入門」について、色々と書いていきたいと思います。1回目はパワードスピーカー、2回目はDAC、3回目はアンプ+パッシブスピーカーについて語りました。
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ネットワークオーディオプレーヤー+パッシブスピーカーセット(U10万円)
本誌では、U10万円のセットとして、MARANTZのNA6006+PresonusのEris E5 XTが紹介されていました。このクラスになると機器の選択肢は言うまでもなく、構成の選択肢も幅広くなってきます。
前回までの繰り返しになりますが、オーディオの基本的な構成は、プレーヤー+DAC+アンプ(プリアンプ+メインアンプ)+(パッシブ)スピーカーです。原理的にはすべてをばらばらの機器にするディスクリート構成の音質がもっともよくなりますが、スペースが必要、利便性が低い、ケーブルが多くなるのでスタイリッシュではない、実際には機器間の相性があるので、ディスクリートにするとむしろ音質が悪化する場合が多々あるなど、様々なデメリットがあります。オーディオ道とは、自分にとって最適な機器の組み合わせを、場合によっては音楽のジャンルや曲によって探求する楽しみのことです。一方、大半の人間はそんなことに関心がないので、最適な組み合わせを探求するのは苦痛でしかなく、どんなジャンルでも90点以上の音質が期待できる利便性の高いシステムが欲しい。オーディオ道を探求するオーディオマニアのアドバイスが参考にならない場合が(多々)あるのは、このギャップによるところが大きいです。
システムのディスクリート化が音質と利便性のトレードオフに直面することが分かったところで、逆に考えると、各パートを合成すれば音質を犠牲にしつつ、利便性を高められることになります。では、どこを合成すればよいでしょう。もっとも定番のものが、アンプ+スピーカーを合成したパワードスピーカーです。Bluetoothスピーカーやスマートスピーカーなども基本的にこのカテゴリーです。プレーヤーとDACはスマートフォンやPCに任せて、後はスピーカーに繋ぐだけで、いい音が聞けるという触れ込みで、これが令和の基本構成と考えていいと思います。
スマホ・PC(プレーヤー+DAC)+パワードスピーカー(アンプ+パッシブスピーカー)
この基本構成から、ディスクリート化を進めていけば、利便性は犠牲にしつつ音質を向上できることになります。どこをディスクリートにするのが効果的でしょうか。連載の第二回ではプリアンプを分離する案が出されていましたが、これは個人的に疑問のある提案でした。たしかにプリアンプを分離することに意味がないわけではないですが、分離するならDACのほうが効果的ですし将来性がある、という話をしました。
本誌の提案:スマホ・PC(プレーヤー+DAC)+プリアンプ+パワードスピーカー(アンプ+パッシブスピーカー)
私の提案:スマホ・PC(プレーヤー)+DAC+パワードスピーカー(アンプ+パッシブスピーカー)
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そして、第三回ではパワードスピーカーをアンプとパッシブスピーカーに分離する案が出されていましたが、主に予算(U4万円)の理由から、私はあまり賛同できませんでした。逆に言えば、予算さえクリアできれば、そして音質が重要であれば、アンプとスピーカーは分離したほうがいいです。目安として、U5万円まではDAC+パワード構成のほうがいいと思っていますが、U10万円なら分離を考えるべきです。
本誌の提案:スマホ・PC(プレーヤー+DAC)+アンプ+パッシブスピーカー
私の提案:スマホ・PC(プレーヤー)+DAC+パワードスピーカー(アンプ+パッシブスピーカー)
ということで、第4回です。MARANTZのNA6006+PresonusのEris E5 XTの構成は、スマホやPCの代わりにプレーヤーを使いましょう、というもので、構成自体は令和の基本構成通りです。結論から言えば、この提案もあまり賛同できません。たしかにプレーヤー+DACを本格的なプレーヤーに替えることは非常に重要です。スマホやPCはノイズの塊なので、そもそも音楽を再生する機器として適切ではありません。ただ、DACさえ分離してしまえば、プレーヤーが音質を左右する程度は(アンプと)スピーカーに比べると小さいので、予算10万円の5割近く(8割、DACが3割として計算)をプレーヤーに注ぎ込むのはややバランスが悪いようにも思います。MARANTZのNA6006はHi-Fiオーディオの基幹部にできる素晴らしい機体で、DACのES9016K2Mも申し分ありません。ただ、10万円のシステムにはバランスが悪いと思います。
本誌の提案:オーディオプレーヤー(プレーヤー+DAC)+パワードスピーカー(アンプ+パッシブスピーカー)
私の提案1
それでは、どのようなシステムを組めばいいでしょう。第一案は第二回・第三回と同様のDAC分離構成です。ZEN-DACを組みこんで、DACをノイズの塊であるスマホ・PCと切り離します(DACチップ単体ではES9016K2Mにやや分がありますが)。残りの予算はパワードスピーカーにつぎ込んでください。実勢5万円のYAMAHA MSP5 STUDIOで十分、少し予算オーバーしていいのなら、プロの現場でも利用されているGENELECの8010APすらもシステムに組み込むことができますし、DACをAstell&Kern PEE51 AKにすれば、予算内に収まります。接続性を考えると、8010APではなくてG Oneのほうがいいかもしれません。余談ですが、ここでDAC部分をRME ADI-2 DAC FSに換えれば、最高レベルの20万円システムが完成します。
スマホ・PC(プレーヤー)+DAC+パワードスピーカー(アンプ+パッシブスピーカー)
- ZEN-DAC+YAMAHA MSP5 STUDIO
- PEE51 AK+GENELEC 8010AP (G One)
- ZEN-DAC+GENELEC 8010AP (G One)(やや予算超過)
- RME ADI-2 DAC FS+GENELEC 8010AP (G One)(予算20万円級システム)
私の提案2
第二案は令和の基本構成に最強のパワードスピーカーを入れる、です。当然ながら、利便性は犠牲になりません。クリプトンのKS-55はちょうど10万円ですから、これで大丈夫です。音質と利便性の総合力では侮れない選択肢になります。また、逆に合成を進めて全部入りのシステムを買うのも推奨です。当然ながら、こちらも利便性は最高評価です。たとえば、TechnicsのSC-C70MK2やSC-C50は10万円前後ですが、聴き比べるといかにスピーカーの性能が音質を左右するか実感できると思います。
スマホ・PC(プレーヤー+DAC)+パワードスピーカー(アンプ+パッシブスピーカー)
- KS-55(厳密に言えば、KS-55についてはDACが出てこないですが、他との対比で便宜的に上のように書いておきます。)
全部入りシステム
- SC-C70MK2
- SC-C50
私の提案3
提案2は半分ネタ、半分本気ですが、一応オーディオブログなので、第三案はディスクリート構成を紹介しましょう。ディスクリートと言いながら、プレーヤー・DAC・プリメインアンプ全部入りのMarantz、M-CR612にパッシブスピーカーを組み合わせる構成です(このブログではお馴染みですが)。実勢6万円程度想定で話を進めますが、コロナによる供給制約の影響もあるのか、欠品のことも多いのがややネックです。これにDALIのSPEKTOR2を合わせれば、立派なHiFiシステムの完成です。オーディオに興味を持ってくれば、スピーカーをいいものに変えていけばよいでしょう。その他のスピーカーの選択肢はミニコンポ2021を参照してください。そろそろ2022の時期ですが、それほど候補は変わっておらず、OBERON1や3030iが安定してお勧めできます。
システムコンポーネント+パッシブスピーカー
- M-CR612+SPEKTOR2
- M-CR612+OBERON1
- M-CR612+3030i
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おわりに
ということで最終回の第4回目はU10万円のシステムでした。U10万円は資金配分次第で様々な選択肢を取れるので、選ぶ楽しみと苦しみが味わえるいい予算帯だと思いますが、失敗したときに失うものが多いので、慎重に機器を選びたいですね。本誌ではHiFiシステムでも採用されるオーディオプレーヤーにコスパのいいパワードスピーカーを組み合わせる構成でしたが、音質に直結するスピーカーに予算を振り分けたほうが音質を上げることができると思います。
まとめ
- 本誌の構成:NA6006+PresonusのEris E5 XT
- 私の推奨構成1:DAC分離構成
- 私の推奨構成2:パワードまたはオールインワン
- スマホ・PC+KS55
- SC-C70MK2
- SC-C50
- 私の推奨構成3:DAC・アンプ内蔵プレーヤー+パッシブスピーカー
- M-CR612+SPEKTOR2
- M-CR612+OBERON1
- M-CR612+3030i
本音のオーディオ入門3:アンプ+パッシブ構成の是非
はじめに
1・2に引き続き、MONOQLO2021年11月号「本音のオーディオ入門」について、色々と書いていきたいと思います。1回目はパワードスピーカー、2回目はDACについて語りました。
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U4万円のパッシブスピーカーセット
本誌では、U4万円のトールボーイセットとして、コスパ良好な中華アンプ、NobsoundのGFJ804にSONYのトールボーイ入門機であるSS-CS3を合わせた組み合わせが紹介されています。トールボーイスピーカーは通常のブックシェルフスピーカーと違ってスタンド一体になっているので、スピーカーを買った感が得られる(笑)とともに、ツイーター(高音域)が高い位置にあるので、音が抜けやすい・通りやすいといった利点があります。本機はオーディオ用途よりはAV用途向けの製品なので、テレビなどと接続することも念頭に置いて運用する感じでしょう。トールボーイはサイズを稼げるのも魅力(基本的にスピーカーは大きいほうが有利です)である一方、スペース制約のある日本のご家庭にはやや厳しい場合も少ない、というのもまた事実です。
さて、対抗馬なのですが、そもそも4万円でプリメインアンプ+パッシブスピーカーのセットを選択するのは無謀というのが私の意見です。アンプ、スピーカーともに物足りない機体の組み合わせで音質が不十分になりがち、利便性が低いので、結局再生するのが面倒くさくなって、せっかく買ったシステムで音楽を聞かなくなる可能性すらあるように思います。前回書いたように、U4万円程度なら、利便性を重視して全部入りのアクティブスピーカーを選択したほうがよいと思います。2万円のアクティブスピーカー、たとえばJBL PROの104-BT-Y3にiFi Zen DAC V2を組み合わせた構成に音質的に勝てるものはそうそう無いと思います。
どうしてもこの価格帯でアンプ+パッシブの構成を取りたいのであれば、日本が誇るミニコンポという選択肢が有力です。このミニコンポの市場も、Bluetoothスピーカーに押されて衰退気味ではありますが、長きにわたる過当競争の結果、コスパおばけというべきPanasonicのSC-PMX90を世に生み出しています。この製品は実勢で3万円を切っていますが、一昔前の10万円のシステムの音質を凌駕します。KENWOODのK-515も有力な選択肢でしたが、在庫薄で価格が高騰しており、コスパが悪化しましたため、積極的に検討できません。
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おわりに
前回書いたとおりですが、5万円程度の予算でアンプを個別に買うことはおすすめしません。全部入りのパワードスピーカーに比べて手間で不便、その割に音質的な恩恵も少ないです。素直にパワードスピーカーを買って、予算が余れば素性のいいDACを追加してください。唯一の例外が日本のお家芸とでも言うべきミニコンポ、この製品群はアンプとスピーカー間の最適化がしっかりと図られており、コスパがいいと思います(市場は衰退気味ですが)。次回は予算10万円のシステムを見ていきましょう。